往年のフィアットの総帥がオーダーした特別仕立てのオープンカー
先頃、フランス・パリで開催されたRMサザビーズのオークションに、1958年式のフィアット「500」をベースとするオープンカーが出品されました。果たしてどんなモデルなのでしょうか?
【画像】「えっ!…」これがフィアットの総帥がオーダーした特別仕立てのオープンカーです(12枚)
当該車両のベースモデルであるフィアット「500」は、1950年代に登場したコンパクトカー。イタリアの戦後復興を象徴する1台として、あまりにも有名です。
ただし、今回オークションに出品されたの、“フツー”のフィアット「500」とは一線を画す仕様。「500スピアッジーナ・ボアーノ」と名づけられた特別仕立てのオープンカーです。しかもオーナーは、フィアットの創業家一族であるアニェッリ家の当主といいますから、なんだかワケありの香りがします。
そのオーナーの名は、ジャンニ・アニェッリ(1866~1945年)。フィアットの創業者であるジョヴァンニ・アニェッリの孫に当たる人物です。1920年代からフィアットの経営に関わり、第二次世界大戦後には同社の会長に就任しました。
アニェッリ家はイタリアを代表する財閥のひとつで、フィアットを始めとする多数の企業を傘下に収めていました。その総帥であるジャンニ・アニェッリは、経営者としての手腕はもちろんのこと、ユベントスFCのオーナーも務めるなど、ファッションやスポーツなどの分野においても影響力を有していました。
その影響力は絶大で、イタリアのGDPの約4.4%、産業労働者の約3.1%を支配していたともいわれています。
そんなジャンニ・アニェッリが、別荘内で使う分と友人へプレゼントする分の計2台をオーダーしたのが、今回オークションに出品された「500スピアッジーナ・ボアーノ」なのです。
「別荘内用……って、一体どんな別荘なんだ?」と思われた方、鋭いです。別荘があるのは南仏、ニースやモナコからそう遠くない岬にあるヴィラ・レオポルダ(Villa Leopolda)で、レオポルド2世のために、1902年に建造されたものです。ちなみにこちら、最近、ロシアのオリガルヒが800億円強で購入したと話題になった物件でもあります。
そして、もう1台の「500スピアッジーナ・ボアーノ」は、ジャンニ・アニェッリの友人でギリシャの海運王と呼ばれたアリストテレス・オナシスにプレゼントされたそうです。別荘も交友関係も華麗過ぎますね……。
●“ラ・ドルチェ・ヴィータ”を体現
「500スピアッジーナ・ボアーノ」の車体は、ベースモデルのクローズドボディではなく、“オープンカタマラン”と呼ばれるタイプの“スピアッジーナ=イタリア語でいうビーチカーの意味”に仕立てられています。
さらに、ウッド製のインテリアパーツや特注のシート、そして独特のデザインが施されており、まさに当時のイタリアンスタイルを体現した1台といえるでしょう。
「500スピアッジーナ・ボアーノ」のデザインを手がけたのは、イタリアの名匠と呼ばれたマリオ・ボアーノ。ボアーノは1950年代を代表するカロッツェリア(車体製造)デザイナーのひとりで、フィアットを始め多くのメーカーの車両デザインを手がけた人物です。
特別仕立ての「500スピアッジーナ・ボアーノ」はファッション誌の『ヴォーグ』に掲載され、“ラ・ドルチェ・ヴィータ=イタリア語で「甘い生活」の意味”を完璧に体現したビーチカー流行の火つけ役となりました。
今回、出品されたのは、現存する唯一の車両と考えられているもので、1973年にジャンニ・アニェッリのドライバーを務めていたベルナディーノ・アイアッサに譲渡され、その1年後にマリオ・ロッシなる人物へと売却されたのだそうです。
しばらく行方知れずになっていましたが、最近になってイタリア・トリノの著名コレクターによって発見されました。そして2018年には、イタリア・コモ湖畔で開催されたコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステに出展されています。
今回のオークションでRMサザビーズが提示していた予想落札価格は27万ユーロ~(約4547万円~)。フィアット「500」をベースに仕立てられたビーチカーの中でも、飛びぬけて高額でした。
ジャンニ・アニェッリが発注したというヒストリー、元祖ビーチカーであるという紛れもない事実、そして、唯一現存するモデルという希少性……そのすべてがプラスに作用したようです。なんと落札価格は37万625ユーロ(約6242万円)にまで達しました。
ジャンニ・アニェッリもスゴい人ですが、今の時代にこのクルマを落札した方もスゴい人です。
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